政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
「あの、ここは賃貸ですか?」

緊張して、突拍子のない言葉が口から滑り出てしまった。

「いや、俺の持ち家だ。気に入らないか?」

私の言葉を怪訝に思う素振りも見せずに、彼が抑揚のない声で答える。

「い、いえっ。とんでもないです。ただ豪華すぎて驚いてしまって……」
もごもご口にする私に彼が小首を傾げる。さら、と綺麗な黒髪が揺れた。

「彩乃が気に入らなかったら引っ越すから」

当たり前のように言われて、二の句が告げれない。お金持ちの考えることはよくわからない。

「周辺環境と彩乃と俺の通勤に便利かと思って選んだだけだ」
しれっとそう言って、彼は私を玄関に促す。

「……まさか、今回の結婚のために購入したんですか?」
恐る恐る尋ねると、彼が鷹揚に頷く。

「それ以外の理由がないだろ?」
彼の返事に私は目を見張った。

……価値観が違いすぎる。

私はただの一般市民で、こんな豪華なマンションを簡単に買えるような人の妻にまるで相応しくない。今さらそんな事実に気づいて愕然とする。

「早く入って」
彼が焦れたように、部屋の中心部に続く廊下から私を呼ぶ。

その声に私は、マンションとは思えない広すぎる玄関に立ち尽くしたままだということに気づく。

マンションの外観と同じ真っ白な壁。部屋の中からは新築特有の匂いが漂う。
大理石だろうか。優しいベージュ色の玄関にはシューズインクローゼットまであった。

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