一途な騎士はウブな王女を愛したくてたまらない
フォンタナはメアリが育った街でもある。
そして、生まれて間もないメアリを育てくれた人がいる。
それはイアンの妹だけでなく、他の人の手を借りたこともあっただろう。
そんな人々が住む街が戦火になるかもしれない時に、城で待っているだけなどできない。
メイナードの娘として、王女としてできる最大限出来ることを。
「私の守るべきものの為にフォンタナへ、そしてイアン様は私を支える為にフォンタナへ」
「あなたが戦場に立つと言うのですか。剣術も半人前、護身術もまだものにしておられないあなたが」
「うっ……で、でも」
「遊びではないんですよ」
容赦ない言葉ではねつけられて、メアリは一瞬怯んでしまう。
けれど、負けるわけにはいかないと、勢いよく立ち上がった。
「わかっています! でも、大切な人に何もできないで死に別れるのは……後悔しか生まれないんです。こうしておけば良かったと後で思っても過去には戻れない。それなら、今、やれるべきことをしたい」
あの夜、大切な者を失った悲しみを、今また繰り返したくはない。
あの時確かにイアンも苦しかったはずなのだ。
綺麗事なのは承知で、それでもメアリは思うままに声にした。
だが、イアンの唇は動かず、けれどメアリも引かないとばかりに「イアン様」と押す。
その時、室内に「良いのではないでしょうか?」と、穏やかな声が通った。