とろけるようなデザートは、今宵も貴方の甘い言葉。
喬一さんの実家に行くのは実は初めてだ。挨拶はホテルでの結納のみ。
お姉さんも喬一さんも、もし親戚が邪魔したら申し訳ないからと店の方へ来ないほうはいいと言ってくれていたからだ。
古舘呉服屋は室町時代から続く老舗呉服屋で、遠祖は神社の祭で祭礼着を奉納していたらしい。そこから法衣商として暖簾を揚げ、江戸時代には百余軒もの分家を擁すまでになっていたとか。江戸時代は新しい染物技術や訪問着中心で売る分家もでき、常にまとめる立場を求められた古舘家は威厳を主張するような豪邸を都内一等地に建てている。
そこの蔵は、日本文化遺産に申請中で、庭は開放され、本館二階には古舘呉服屋のアートギャラリーとして文化とファッションの展示をしている。
「俺は長子じゃないから、メンテナンスが大変なあの家を継がなくて、心の底じゃラッキーと思う部分もあったんだよね」
延々と続く壁を追うように運転している喬一さんが、苦笑する。
もし勘違いでなければ、たぶんこの壁は全てその古舘呉服屋の敷地だ。
先ほどからすれ違う車が高級車だったり上品な着物の女性ばかりだ。
「姉は、着物の染め物や柄を小さな頃から熱心に眺めていたし勉強していた。どうみても姉の方が古舘屋の看板を背負うのに適しているよ」