とろけるようなデザートは、今宵も貴方の甘い言葉。

 それでも壁の向こうのお店からは車が止まる音やドアの開閉の音が止むことはない。

 呉服店の裏に竹の生えた小道と高い門で隠れるように建てられている本家に、長い廊下を伝って向かう。四季を感じられる庭は、解放されている呉服店の方の庭とは違い、額縁に飾られているような、こじんまりした中に決められた美しい構図でどこもかしこも息を飲むような美しさだ。

「わあ、美味しそうな大根ですね」

 段ボールの上が少し開いていたので中身が見え、旦那さんが微笑む。

 古舘 麗一さん。今年三十七歳の服飾デザイナー。今は着物のデザインの方に携わっていると喬一さんが言っていた。柔軟なゴムと例えられるように、違ったところのない優しそうな人だ。

「すいません。重いですよね」
「いえいえ。大根おろしで食べるぴりっとしたお餅が大好物なので、大歓迎です。おっと」

 段ボールの蓋が完全に開いてしまって、視界を塞ぐので何個か野菜を出して蓋の上に置いた。少しでも軽くなるように大根を二本、手に持つ。
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