とろけるようなデザートは、今宵も貴方の甘い言葉。

 お姉さんは立ち上がると湯のみを取り出した。お正月用なのか鶴と亀が金箔で飾られてた縁担ぎの湯飲み。それにお茶を注ぎながら、客間から聞こえてくる怒鳴り声に嘆息する。
 いくら気丈にふるまっていても、お正月だしお腹に赤ちゃんもいるのに、気の滅入る人物には疲れてしまうんだろう。

「本家の跡取りになるならば、何かを我慢しないといけない。それが恋愛なんですって。面白いわね。女性が好きな人と結婚できないなんて。長子が全部我慢しないといけないなんて。私は強く戦うわよ。お腹の子が安心して、出会う人、出会う人、好きになれるような環境をね。ほんと悪習は滅びるべき」

 苦労されてるのが嫌というほどわかるので、お姉さんとお兄さんに同情してしまう。

「……私も近づいてくる人がほぼ兄とか父へのすり寄りだったせいか、恋愛できる自信なかったので、喬一さんに出会えて本当に感謝してます。喬一さんが我慢せず、自由にできたのはお姉さんの努力があったと、彼もちゃんと気づいているんですよ」
 お茶のいい香りに目を閉じつつ、二人の苦労を想い、そう伝える。
 お姉さんは、少しほっとした様子で湯飲みを置くと隣に並んだ。

「紗矢さん……私、本当は妹が欲しかったのよ。うんと甘えて頂戴ね」
「へへ。喬一さんに甘えすぎてるのに、お姉さんにも甘えていいのかな」
「全然足らない。もっと俺に甘えてほしい」

 ちょうど台所へ入ってきた喬一さんに、ばっちり聞かれていたらしい。恥ずかしくて一気に耳まで真っ赤になってしまった。

「叔父さんと左京が来てるのか」
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