Jelly
「階段を上っている全員が急いでるわけじゃない。優月がそこを通り過ぎても、別の誰かがその人を助けるかもしれない」

「それでも、ほとんどの人がそういうの、見て見ぬふりをするって俺は知ってるから。……あ」
 頭の中を通り過ぎかけた話が、ようやく現実とリンクした。

「……わかった、かも」
半ば独り言のように口に出した。

 そもそも、仕事が上手く回らないのを誰のせいだなんて考えること自体が間違ってたんじゃないだろうか? 

『人間のとる行動のほとんどは環境やルールに縛られてる』言われてみれば、確かにそうだ。

開発エンジニアたちは、パッケージのカスタマイズという枠に捕らわれているから力を上手く発揮できない。俺は出来上がったその複雑なコードの中からバグを探すというレールから外れられないから、詰まってる。

……安藤さんは、会社とクライアント双方の利益を生み出すという大きな制限に縛られてる。自分の思うようになんて、やりたくてもできるわけがない。みんな一緒だ。
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