ビーサイド
店を出るとすぐに慎太郎さんが、二次会行く人ーと声を掛けた。
意外にも涼くん以外の全員が手を挙げていて、私もそれに合わせて手を挙げようとすると、その手を誰かが掴んだ。
「朱音さんは具合悪いんでしょ」
― いや、そんなこと言った覚えないのだが。
涼くんに掴まれた手首が、熱くなる。
「え、朱音大丈夫?飲みすぎた?」
「あぁ、うん。えっと…もう大丈夫」
心配してくれた真由子たちにそう答えている間に、さりげなく涼くんの手を振り払おうとするが、それは許されなかった。
「無理しないの。帰るよ」
そうやってこの人はまた強引に、所詮身代わりの私の手を引くんだ。
涼くんの自分勝手さに、どんどんと喉の奥が熱くなってきた。
「大丈夫。一人で帰れる」
ありったけの力を込めて涼くんの手を振り払うと、すぐさま理久が反対側の私の手を引いた。
「駅までみんなで送るから、ね?」
さっきのから揚げの件といい、理久は私と涼くんの関係に気付いているのかもしれない。
今日だけで2回も、私は彼に助けられていた。
そして結局改札まで全員で見送りをしてくれて、私は中央線の改札を、涼くんは京王線の改札をくぐった。
土曜日の22時前、中央線は満員御礼だ。
私は少しベンチで休んでから、頃合いを見計らって電車に乗る。
“お疲れさま!大丈夫~?家着いたら連絡すること!”
理久からの可愛いメッセージに口元を緩めながら返信をして、心のどこかで待っていた人からの連絡がないことを、幸いと思うように暗示をかけた。
いいように使われているだけなんだ。
だから私も、寂しいときに会って、彼氏ができたらすんなり離れる。
それでいい。それが正解。
というかそもそもその予定で、私は涼くんと関係を続けているのだ。
しかしそんな暗示は、西荻窪の改札を通るといとも簡単に解けてしまった。