ビーサイド

店を出るとすぐに慎太郎さんが、二次会行く人ーと声を掛けた。

意外にも涼くん以外の全員が手を挙げていて、私もそれに合わせて手を挙げようとすると、その手を誰かが掴んだ。

「朱音さんは具合悪いんでしょ」

― いや、そんなこと言った覚えないのだが。

涼くんに掴まれた手首が、熱くなる。

「え、朱音大丈夫?飲みすぎた?」

「あぁ、うん。えっと…もう大丈夫」

心配してくれた真由子たちにそう答えている間に、さりげなく涼くんの手を振り払おうとするが、それは許されなかった。

「無理しないの。帰るよ」

そうやってこの人はまた強引に、所詮身代わりの私の手を引くんだ。
涼くんの自分勝手さに、どんどんと喉の奥が熱くなってきた。

「大丈夫。一人で帰れる」

ありったけの力を込めて涼くんの手を振り払うと、すぐさま理久が反対側の私の手を引いた。

「駅までみんなで送るから、ね?」

さっきのから揚げの件といい、理久は私と涼くんの関係に気付いているのかもしれない。
今日だけで2回も、私は彼に助けられていた。


そして結局改札まで全員で見送りをしてくれて、私は中央線の改札を、涼くんは京王線の改札をくぐった。

土曜日の22時前、中央線は満員御礼だ。
私は少しベンチで休んでから、頃合いを見計らって電車に乗る。

“お疲れさま!大丈夫~?家着いたら連絡すること!”

理久からの可愛いメッセージに口元を緩めながら返信をして、心のどこかで待っていた人からの連絡がないことを、幸いと思うように暗示をかけた。


いいように使われているだけなんだ。
だから私も、寂しいときに会って、彼氏ができたらすんなり離れる。

それでいい。それが正解。
というかそもそもその予定で、私は涼くんと関係を続けているのだ。

しかしそんな暗示は、西荻窪の改札を通るといとも簡単に解けてしまった。


< 44 / 96 >

この作品をシェア

pagetop