ビーサイド
その日、久しぶりの自分の部屋のシングルベッドは妙に広く感じた。
見慣れた懐かしい天井にほっとして、深い溜息が漏れる。
― もう戻ってこよう。
涼くんの部屋に行くこともなく、洋介とも本当に別れた今、もうあの部屋にこだわる必要はなかった。
あえて聞いてはこないが、恐らく両親だってわかっているだろう。
涼くんのこと、洋介のこと。
この数か月の目まぐるしい出来事たちに、もう私はへとへとだった。
「…慣れないこと、するもんじゃないわ…」
そんな呟きは、テレビの中の笑い声にかき消された。
本当に理久の言う通りだった。
遊びだと割り切ったり、結婚のためだと諦めたり、そういうことが出来るほど自分は器用にできていなかった。
好きな人と結婚して幸せになりたい。
それがこんなにも難しいことだなんて、誰も教えてくれなかった。
みんな当たり前のように幸せになっていくのに、それができない自分はやっぱり欠陥品なのかもしれない。
しかし、そんな弱音を吐いている時間なんて、もう私には残されていない。
今日まで。今日で最後。
明日からは、まだ知らない誰かに期待を膨らませて生活する。
そう誓って、今日だけは夢でいいから涼くんに会いたい、そんな信じられないような少女の心で私は眠りについた。
翌朝、インターホンの音で目が覚めた。
時計は10時を指している。
「朱音~真由子ちゃんだけど~」
「へ?」
慌てて部屋を飛び出すと、玄関には幼馴染の真由子が立っていた。
「え、朱音?帰ってきたの?」
私と同じくらい真由子も驚いている。
会うのはあの合コンの日以来だ。
「おばさん、少しあがってもいいですか?」
「当たり前じゃない!いまさらも~大人になっちゃって~」
母は豪快に笑い、真由子を部屋に通した。
やっぱり顔を合わせてしまうと、真由子に隠し事は通用しない。