ビーサイド

「お疲れ~」

無事に終わったライブを祝して、俺たちともう4組のバンドにライブハウスの関係者を含めておよそ30人。
大々的な打ち上げ兼クリスマスパーティーが始まった。

「涼ちゃーん、若菜ちゃんの隣じゃなくていいのぉ~」

自分らの出番が終わったらすでに飲み始めていたのだろう、すでに酔いのまわってヘロヘロな先輩が、対角から俺を呼んだ。

「涼と若菜付き合ってないですー!!」

まさか慎太郎が、大きな声でそう叫ぶ。
個人的にはグッジョブなのだが、周りは反応に困るだろ。

案の定、なんとも言えない空気が漂い始めたとき、若菜が声をあげた。

「今アタックしてるんだから言わないでよー!」

それを皮切りに冷やかす声があがり、場の雰囲気はどうにか保たれた。

だが、俺にはわかってしまう。

無理に作った彼女の笑顔。
場の雰囲気を盛り下げないために、あえて自分が汚れ役を引き受けてしまうところ。
変わっていない。

男好きだとか言われていたけど、決してそれだけではないんだ若菜は。

両親が早くに亡くなって、引き取られた親戚に嫌われないように振る舞っていたという彼女は、いつだって誰よりも人の気持ちに敏感なのだ。
そして人一倍寂しがり屋。

そういうところも全部ひっくるめて、俺は彼女を大切にしたいと思っていたのに。
若菜は俺じゃなくて目の前にあった結婚を選んで、俺を捨てた。

「変わってねーな、若菜」

俺とは違う意味で言ったであろう慎太郎に、俺は何も返さなかった。

若菜のそういうところを知っているのは、きっと若菜に近づいた人だけだから。


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