あなたの愛になりたい
「喉の渇きは定期的に来るもんだったが、どうにもさすがに自分の見知った顔というのには抵抗があった。こんな体になってもまだどこかに良心が残っていたのかねぇ。いつ誰を襲うか分からない、まださじ加減なんてものが分からないうちに自分の村に帰る気には到底なれなかった。かといってその渇きは潤さない限り続くものだから、人を求めて方々を転々とした。そうやって、さじ加減とかそういう曖昧なものを自分自身で見つけて行ったんだ」
一歩間違えれば大きな噂になり、一歩間違えれば死者が出る。
そんなギリギリな中でこの人は生活をし続けていた。
「それから何年経っただろうな。もう確実に生死の線引きができる程度には時間が経っていたな。ある時、行きついた村でその幼馴染と再会したんだ。……行き着いた村が、故郷だともう分からないくらいの時間が流れていた。再会したその時のあいつの顔は忘れられねぇな。化け物をみる目で、恐怖がありありと浮かんだその瞳が俺を見る。時間の感覚がもう、わからなくなってたんだよ、俺は」
たった一年、二年。
たった十年、二十年。
たった……
長い年を生きるものにとって、時間の重みは“たったこれだけ”。
「生きる世界の違いをまざまざと見せつけられたな。小さな子供を連れた、髪の白い、深い皺のあるあいつが。あいつの面影を残したばぁさんが俺から寸分も目をそらさずに立ってたんだ」
別れたその時と全く変わらない姿の自分とガラリと変わってしまった幼馴染。
それは今までに感じたことのない痛み。
感じることのなかったはずの痛み。
私たち“普通の人”では感じることのない痛みだ。
ため息をついたお兄さんは、言う。
「永遠の命なんて良いもんじゃねぇぞ?まぁ、あれだ。こんな俺に、愛だの恋だのが分かるわけがねぇってことだ。十の昔にどっかに忘れてきたんだ。……でもま、お前は大丈夫だよ。悪くない眼だ。見つけられるさ、愛ってやつも」
そう言って笑う目の前のヴァンパイアは、ひどく優しい顔をしていた。
迂闊にも泣きそうになった。