【最愛婚シリーズ】クールな御曹司の過剰な求愛

「いえ。せっかく来たのに話もできずに残念でしたね。社長は忙しい人だから。本当なら今日は外出の予定じゃなかったんだけど」

 気を遣ってくれていることがわかり、恐縮する。

「いいえ。お忙しいのは承知ですから。お時間とっていただくだけでありがたいです」

「あ、そうそう。社長って急がしいから興味のない相手に対して時間をとらないんです。だからきっと脈アリですよ!」

 それって! 一瞬ドキッとしてしまった。坂上さんの言葉を変なふうにとらえてしまったからだ。

 〝仕事として〟脈有りと言っただけで、わたしと神永さんが付き合う云々の話ではない。

 どうしてそんな考えに行き着いてしまうのか。きっとさっき見た神永さんの笑顔が素敵すぎたから、彼が意識させるような態度をするから悪いんだ。

 勝手に彼のせいだと自分に言い聞かせた。

「そうだったらいいのですが」

 自分のお花畑な脳内がばれないように、営業スマイルを浮かべて立ち上がる。

 坂上さんに見送ってもらい、芝生の中にあるレンガ道を通って敷地の外に出た。まるで異世界のような美しい庭を通る間、わたしの頭の中にあったのは神永さんのことだ。

 これから会社に戻って、仕事をこなさなくてはならない。一件商談が進まなかったのだから、本来ならばその穴埋めをするべく他の顧客にアプローチしなくてはならない。
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