【最愛婚シリーズ】クールな御曹司の過剰な求愛
それなのに……。

 わたしの脳内は本当にお花畑になってしまったのだろうか。さっきからずっと神永さんのことばかり考えてしまう。いつもはこんなことないのに。

 ブンブンと頭を振って駅に向かう。会社に戻るまでには、ちゃんと頭を切り替えなくては。
そうして戻った社内で本日の商談が不発だったことを課長に伝えると、ものすごい剣幕で「是が非でも今月中に入金をしてもらえっ!」とまくしたてられた。

 どうやら勇み足で、すでに今月契約が取れると上に報告してしまっているようだ。

 はぁ……どうしよう……。
 
 わたしだってそうしたいことは山々だ。けれど、相手が忙しすぎて時間が取れないのだからどうしようもない。

 先日かっこつけずに、口座開設してもらった方がよかったかも……、いや、それじゃあ神永さんが満足する取引をしてもらえないかもしれないし。

 自分の信条を曲げそうになって、あわてて打ち消した。

 とりあえず神永さんがダメだったときのために、他のお客様へのアプローチも増やさないと。

「はぁ」とため息をついたとき、前のデスクに座る芽衣子さんがバッグを持って帰る準備をしていた。

「そんなため息ついてないで、イケメンゲットしなさいっ! なんたってわたしの将来もかかってるんだからね」

 あぁ……それもあった。

「契約はともかく、あんまり期待しないでください」
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