エリート社員の一途な幼なじみに告白されました
#7 突然のお誘い
やっと待ちに待った定時退社日。なんとか定時で退社しようと、その分いつもより一時間早く出勤すると、オフィスには部長と数人の営業社員に加えて、環がデスクに座っているのが見えた。環の顔をまともに見たのは……よく考えたら、初日以来だ。……いや、よく考えなくても変な話だ。連絡先を聞こうか何度も迷ったけれど、忙しい環の迷惑になるのが嫌で聞かずに今日まで来てしまった。
 
 今日も話しかけようにも、環は朝早くから誰かと電話していて、パソコンに向きあいながら真剣な眼差しをしていた。私はコートの上着を営業事務用のロッカーに入れると、自分のデスクにつき、コンビニで買ったコーヒーを傍に置いてパソコンの電源を入れる。

「ええと、まずはこれから取りかかるかな」
 作りかけの見積書を作成しようとファイルを開くと、後ろから「森本さん」という声が聞こえた。ビクッとして振り返ると、そこには薄いクリアファイルを持った環が立っている。

「たま……、く、倉持さん。おはようございます」
 直接会うと思わずため口を使いそうになる。でも、社員の数がまばら故に、オフィスの中でため口を使うのは静かにしていても響きそうだった。

「お電話、終わったんですね」
「ええ」

 環が何か言いたげに一瞬、間を置いてから、
「二週間、仕事を任せきりにしてしまい、申し訳ありません」
 と申し訳なさそうに軽く頭を下げた。

 そうだそうだ。あれだけ怒濤の仕事量をこなしてきたのに、ちっとも会えずにフォローも無いなんて、文句の一つくらい言ってやろうかと思ったのに。でも、本人に素直に謝られると言い返す気持ちが失せてしまう。

「い、いえ。気にしないでください」
 私がそう言うと、環は私の横へと移動してきて、パソコンの見積書の画面をちらりと見遣った。
「森本さんは仕事が早くて、とても助かっています。あれだけの量をお願いしているのにミスもないし、ありがたいです」

 環の方を見上げると、薄い縁なしの眼鏡越しに、僅かに目を細めて穏やかな眼差しをする環と目が合った。私の胸の鼓動がとくん、と跳ねた。
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