エリート社員の一途な幼なじみに告白されました
#9 大切な人 ―過去・環side―
梓が僕と一緒に猫に餌をあげるようになってから、二ヶ月が経っていた。いつも通りコンビニで餌を買うと、僕と梓は二人で猫が待つ場所へ会いに行く。

「昨日、コムギの様子どうだった?」
「うん、いつも通り元気にご飯を食べてくれたよ。毛の艶も何だか良くなってる感じがする」
「そうか、良かった」

 一ヶ月は梓が慣れるまで二人で猫に会いに行っていたけれど、僕も梓も学校が違うこともあり、放課後に係の仕事があったり、梓に用事があったりする日はどちらかが代わりに餌をあげるようになっていた。昨日は僕が日直の仕事で学校を出るのが遅くなりそうだったので、梓に任せていたのだ。
 
 それから、梓の提案で猫には名前がついた。茶トラで小麦色だから、コムギ。単純だけれど僕はその名前が気に入っていた。

「今日はさ、苦手な算数のテストがあって最悪だった。きっと点数が悪いだろうなあ」
コムギに会いに行く途中、いつも梓は今日あった学校の話をする。
「算数なんて形さえ覚えれば後は応用するだけだよ」
「あーあ、環ってそういうよく分からないことを平気で言うよね。だから友だちが少ないんだよ」
「……うるさい」
「あ、今日は待っててくれたよ!」

 いつもの場所に、コムギが待っている。凛とした佇まいで空を見上げていたけれど、僕と梓を見つけると甘えるようにすり寄ってくる。
「いつも見ても可愛いねえ」
 梓は慣れた手つきで缶を開けてコムギに餌をあげる。最近は水道水を持ってきて水もあげるようになった。
 
 梓が笑顔で餌をやっている姿を見ていると、僕の心の奥の冷たいものが解けていく。だから僕は彼女の横顔を見るのが好きだった。
「……どうかした?」
 僕の視線に気付いたのか、梓が僕を見た。慌てて視線を逸らす。
「べ、別に何でもない」
「ふふ、変なの」
 梓はくすっと笑って、またコムギと触れ合う。
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