仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「ああ、だが、この写真は確認して貰う」

一希はその件だけは譲らないと、強い意志を持っているように見えた。

「……拘り過ぎじゃない? 誰が言ったのかを特定したところで、周りが一希と観原千夜子を見る目は変わらないわ。私だって今更何を言われてもふたりの関係は愛人関係としか思えないし」

「勘違いするな。別にお前の誤解を解きたい訳じゃない。いいから早く答えろ」

一希はかなり苛立っているようで、美琴に対する当たりがきつくなって来ている。

これ以上怒らせても、良い結果はないように思えた。

かといって、言いなりになるのも納得がいかない。

(だったら……)

「それに答える代わりに私の質問にも答えて。あなたにとって観原千夜子はどんな存在なの? 愛人じゃないならなに? 友達だなんて言わないでよ? 誰が見たってあなた達の関係は普通の友人関係以上なんだから」

一希は迷っているように、目を伏せた。

そして、しばらく後、顔を上げてはっきりと言った。

「誓って愛人などではない。だが俺にとって、誰よりも守りたい相手だ」

根拠はないけれど、一希は今は真実を語っていると感じた。

と同時に、胸を鋭く突きさす痛みを覚えた。

目元も喉も熱くなり、体が震えてしまいそうになる。

それを必死に抑えて、何でもないふりをして一希を見つめた。

「分かったわ……私に彼女の話をしたのはこの人よ」

一希との本当の決別を感じた。

指先が震えてしまわないように力を込めて、写真を指した。


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