仮面夫婦～御曹司は愛しい妻を溺愛したい～

(……最悪じゃない）

千夜子の馬鹿にしたような笑い声が、頭に響く。

嫌悪感に息苦しさを感じていると、一希の低い声がした。

「その話が本当だったとして、お前はどうして結婚を決心したんだ？　目的があるのだろう？」

「……さっきも言ったけど、私にも事情があるの。それは人に話すことじゃないから」

とくに信頼関係の無い一希には絶対に打ち明けられない。

一希は不快そうにしながらも、追及はして来なかった。かと言って会話が進むはずもなく、リビングには重く長い沈黙が訪れる。


口を閉ざしている間に、だんだんと落ち着きを取り戻していった。

美琴は小さく息を吐いてから一希に告げた。

「私たちの関係は最悪だけど、今のところ私から離婚を言い出す気はないわ。一希はどう考えているの？」

何か考えこんでいる様子だった一希は、美琴の言葉に顔を上げ答える。

「俺もそのつもりはない」

「そう……」

(でも、別れたいと思っているんでしょう？)

そして、いつ実力行使に出て来るのか分からない。

油断は出来ないけれど、しばらくは夫婦として同居しなくてはならない。

「だったら、今まで通り私は納戸部屋で過ごして、必要なとき以外は干渉しないってことでいいの？ それから観原千夜子の私への接近禁止も」