仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
緑の木々に囲まれた新居は平屋建。

ゆとりのある玄関を入って直ぐ右側には、未使用の納戸部屋。
玄関から真っ直ぐ伸びる廊下を進み左側に書斎があり、右側はメインの浴室がある。

廊下の終点の扉の先は、充分な広さのキッチンとリビング。続きの部屋は主寝室。
主寝室には、シャワーブースまで付いていた。
他はトイレが二箇所。食糧保管用の小部屋がひとつ。

殆どの部屋にはコーディネーターが選んだ上品な家具がセンスよく配置され、今すぐ生活できるようになっていた。

書斎は一希が使い仕事を持ち帰ることもある為、美琴は立ち入り禁止と言われていた。

納戸はその用途の為玄関脇にあり、小さな窓がついているだけの、建物の中では一番設備の良くない部屋だ。

一通り見て回ると、美琴は所在なさ気に立ち尽くし、それからとりあえずリビングのソファーに座ってみた。

(なんだか自分の家って感じがしない)

どこもかしこも豪華で、不足しているものなど何もないけれど、モデルルームに来ているようなそんな落ち着かない気持ちになるのだ。

一時いるだけならいいけど、生活をする空間とは思えない。

自分で家具を選ばなかったらだろうか。

(少しだけ花を飾ってみようかな)

実家では妹たちが喜ぶので庭に花を植えていた。

色鮮やかな花は生活に彩りを与えてくれるから、少しは居心地が良くなるかもしれない。

一応一希に許可を得ようかと思っていると、来客を知らせるベルが鳴った。

母屋から誰か来たのかと思い、無防備に玄関扉を開く。

その瞬間、目の前の光景に、美琴は顔を強張らせ息を呑んだ。
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