仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
夜の八時過ぎ、リビングに行こうと部屋を出ると、丁度一希が書斎から出て来るところだった。

母屋から帰って来てずっと書斎に居たようで、昼間のスーツ姿のままだった。

鉢合わせたことに驚いたようだったけれど、昼間の苛立ちを引きずっている様子はなかった。

とくに会話もなくリビングに繋がる扉を開き、美琴はキッチンに入り、食事を作ろうと冷蔵庫を開ける。

一希は寝室へ入って行った。
おそらくこれから外出するのだろう。いつも通りひとりだし簡単なものでいい。

(月見うどんにしようかな……)

冷凍うどんのストックを確認してから、ネギを刻んでいると、寝室の扉が開く音がした。
反射的にそちらへ視線を向ける。

「あれ……」

思わず声を出すと、一希の視線が美琴に向いた。

「なんだ?」

「いや、出かけないのかと思って」

てっきり千夜子と新年のデートでもするのかと思っていたけれど、一希は部屋着に着替えていた。

「家に居たらいけないのか?」

一希が眉をひそめて言う。

「そんなつもりじゃないけど、珍しいと思って」

答えながら、まな板の上のネギを見る。

(……お正月に自分の食事の支度だけするのは、あんまりだよね)

一希に対しての思いやりの気持ちはもう失せているけれど、存在を無視して自分だけ夕食を取る真似は美琴には出来ない。
一希は料理をしないし、外食する様子もない。

母屋で食事をしてからもう六時間以上経っているから、普通ならお腹が空くはずだ。
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