仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「あの、うどん食べようかと思ってるんだけど、一希もいる?」

いつものように、断ってくれたらいいと思った。

そうすればなんの罪悪感もなく、自分だけ食事ができる。

けれど、一希は今日に限って、「ああ」と短く答えた。

(観原千夜子の都合が悪いのかな?)

恋人同士は、いつでも会っていたいものではないのだろうか。

【月見うどん】を【鍋焼きうどん】に変更して二人分のうどんを用意する。

鶏肉を切りながらリビングをちらりと見ると、一希はゆったりと寛ぎ、何かの本を読んでいるようだった。

(暇なのかな……)

一人用の土鍋をふたつ用意してうどんを煮込む。
それ程時間をかけずに作り上げると、一希のいるソファーの前のローテーブルに運んだ。

「どうぞ」

「ああ」

飲み物は何がいいかと聞きかけて止めた。

(それくらい自分で出来るでしょう……それにしても一希って私には文句か“ああ”しか言わない気がする)

そんなことを考えながら、自分の分の土鍋をダイニングテーブルに運び冷たいお茶を用意する。

「いただきます」

小さく呟いて食べ始めると視線を感じた。

「……なに?」

「そこで食べるのか?」

美琴は眉をひそめながら答える。

「そうだけど……部屋に行けって言いたいの?」

随分と険しい表情をしているが、美琴が視界に入るのが苦痛なのだろうか。

一希は一瞬、苛立ったように顔をしかめた。

(また、文句を言う気?)

身構えていると、一希は小さく息を吐いてから言った。

「明後日、久我山家に行くのか?」
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