仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
翌朝、九時半。

外出用のワンピースに着替えてからリビングに行くと、用意を済ませた一希がソファーに座っていた。

彼は昨日とは別のスーツ姿で、タブレットで何かを確認しているところだった。

「もう出られる?」

声をかけると、タブレットを仕舞い立ち上がる。

それからようやく美琴に目を向けて、怪訝そうな顔をした。

「……何?」

一希にじっと見つめられると、文句でも言われるのかと身構えてしまう。

「以前から思っていたが、なぜいつも同じ格好をしているんだ?」

「服のこと?」

「持ち物もだ」

一希は美琴の装いなど関心が無いと思っていたから、意外だった。

「それ程出かける機会もないから、外出着を沢山揃える気にならないだけよ」

仕事をしていない美琴が、畏まった場に出ることなど一希の関係に限られている。そしてその一希は最低限しか美琴に声をかけて来ないのだ。

けれど一希は顔をしかめた。

「そうだとしても体面があるだろう?」

「必要な物は用意しているじゃない」

「そうは思えないが。毎月必要経費分は振り込んでいるんだ。もっと気を遣ってくれ」

当たり前のように告げる一希の言葉に「考えておくわ」とだけ答え、美琴は身を翻して玄関に向かった。

不満そうに一希が呼びかける声がしたけれど、振り向けなかった。

余分なお金など持っていない。でもその事は一希に言えない。
少しでも話したら、追及されてしまいそうだから。

それにしても、毎月貰っているお金の使い方について、クレームが入るとは思わなかった。

神楽家の人間として相応しい持ち物は揃えているつもりだったけれど、どうやら不足しているらしい。

そう長くは誤魔化せないだろうから、やはり祖父に相談するしかない。

追いかけて来た一希と車に乗り込みながら、話の段取りを考えた。
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