仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
久我山家は神楽家から車で三十分程の閑静な住宅街にある。

四百坪程の古い日本家屋だ。

祖父、久我山俊三は、美琴と一希を穏やかに出迎えてくれた。

挨拶を交わすと、祖父は美琴達を中に案内した。

途中応接間の前を過ぎた時、部屋の中から声が聞こえた。

「お客様がいらっしゃってるのですか?」

「ああ、古くからの知り合いが来ている。内藤食品の社長も来ているから、一希君あとで挨拶をしてくるといい」

「はい、そうさせて頂きます」

一希は祖父の言葉に従い答える。

冷静な態度だけれど、警戒しているのか祖父の後ろ姿をじっと見つめている。

(一希はやっぱりお祖父さんが苦手なんだわ。でも、お祖父さんの方はそうでもないみたい)

和室には中央に広い机が置いてあり、その上に豪華な御節料理が用意されていた。

「ゆっくりして行ってくれ」

祖父は使用人に、お酒を用意するように指示をする。

それから、食事をしながら三人で当たり障りのない話をした。

祖父の機嫌は良く、一希もそれに合わせているのか、和やかな笑顔だ。

美琴は愛想笑いをしながらも、実家の相談をいつすればいいのか悩んでいた。

(一希がいるところじゃ切り出せないし。でももう一時間経っているし、あまり時間がない)

迷っていると、都合の良いことに一希から席を外すと言い出した。

「久我山さん、そろそろ内藤氏へ挨拶をしようと思うのですが」

「そうだな、では応接間に案内させよう。私はもう少し孫と話してから伺うよ」

「はい、お願いします」

祖父の合図で、使用人が来ると、一希は部屋を出て行った。

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