仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
電車に乗って地元の駅に着いたのは、待ち合わせ十分前だった。

慧とは改札口で待ち合わせをしている。少し待つかと思ったけれど、慧は既に到着していた。

改札近くの柱の前に立つ彼は、スタイルの良さと華やかな顔立ちのせいで、とても目立っているので、直ぐに見つけられた。

けれど、慧の方はそれよりも先に美琴に気付いていたようで目が合うと、人懐っこそうな笑顔になった。


足早に近づくと、慧も美琴の方に歩いて来る。

よく見ると慧も黒のダッフルコートを着ていた。

偶然とはいえお揃いみたいだと思っていると、慧が明るい声で言う。

「美琴、明けましておめでとう」

「慧、明けましておめでとう。今年もよろしくお願いします」

「もちろん。なあ、初詣なんだけど、本山に行ってみないか? 少し遠いけど広いし、屋台が沢山出てるし楽しめるだろ?」

慧の言う“本山”とは、駅から高台方面に徒歩二十分程の場所ににある、とある宗派の大本山の寺院だ。地元の人は皆、寺名でなく“本山”と呼んでいる。

広大な敷地内は、多くの樹々と池があり、初詣時期は多くの参拝客で賑わう。

中学生の頃、クラスの友達と自転車に乗って行った思い出が蘇った。

懐かしく思いながら、慧に頷いてみせる。

「そうだね。久しぶりに本山に行くのも楽しそう」

「よし、決まりな」

慧は嬉しそうに笑うと、高台の方向に向かって歩きだす。

なだらかな坂の道には、同じように初詣に行くであろう人々がいる。
< 143 / 341 >

この作品をシェア

pagetop