仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「……観原千夜子が一希にそう教えて来たの?」

「そうだ。余計なことかもしれないと、悩んだようだが」

真面目に告げる一希のその言葉に、呆れてしまった。

観原千夜子が悩むわけない。
きっと、ほくそ笑んで一希に連絡したはずだ。

やはり一希は千夜子の悪意にまるで気付いていない。
どんな時でも彼女が善で、美琴が悪なのだ。

(それにしても観原千夜子はどこにいたの?)

美琴は気付かなかったし、慧も同様だろう。もし気付いたら教えてくれたはずだから。

(そもそもどうして、私達の地元に?)

特別な名所はない地域に、千夜子がわざわざ居た理由が分からない。

考え込んでいると、一希の冷ややかな声が耳に届いた。

「以前も言ったが、他人に誤解されるような行動は慎め。神楽家の人間である自覚を持て」

美琴は、はあ、と大きな息を吐いた。

「慧は友人で、誤解されるような行動はしていないわ。前も言ったけど私の交友関係に口出ししないで」

「俺は承知した覚えはない」

「え?」

今まで一希は美琴が強く言えば引き下がっていた。
祖父に弱みがあるからだ。

だから、今もこれで話は終わると思っていたのに、思いがけなく反論された。

美琴は戸惑いながら、一希の冷たい眼差しを受け止めた。

一希は堂々とした態度と、命令口調で美琴に告げる。

「お前は俺の妻だ。弁えろ」

「なに言ってるの? 妻扱いして来なかったのは一希じゃない!」

今夜は声を荒げないようにと心がけていたのに、その決意は脆くも崩れた。

(どうして今更そんなこと言うの?)

一希の勝手さに苛立ちが込み上げる。


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