仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~



今から十五年程前。

美琴は祖父の住む、久我山本家に預けられていた。
実母が病気になり入院した為だ。

美琴はその時初めて祖父に会った。

まだ小学生だったから、気難しい祖父が怖かったし、両親も友達もいない久我山本家の暮らしはとても心細く、子供心に強いストレスを感じていた.

後になって振り返ると、祖父も使用人達も美琴に意地悪などしなかった。
けれど、両親と暮らしていた頃に比べて格段に躾が厳しく、注意されるたびに苦しさが積み重なった。

(家に帰りたい……この家の人はみんな冷たくて怖いから嫌い)

夏休みに入ったため学校にも行けず、周りは何かと叱ってくる大人ばかり。
そんな笑顔も忘れてしまいそうな日々を過ごしていたとき、一希と出会った。

祖父と一希の親が知り合いで、時々遊びに来るんだと紹介された。

艶やかな黒髪に驚くくらい整った顔立ち。何をしても様になる立ち振る舞い。
祖父の家に来てから人見知りになってしまい愛想のない美琴に対しても、根気よく優しく接してくれる。

美琴が通う小学校にこんな男子はいない。
まるで王子様のように綺麗で優しい彼を、美琴は直ぐに好きになった。

当時、中学生になったばかりの一希は、世間的に見たら子供だったけれど、美琴の目には誰よりも頼もしく映っていたのだ。

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