仮面夫婦～御曹司は愛しい妻を溺愛したい～

大人達の間でどんな話し合いが有ったのかは不明だが、一希は美琴の家庭教師を引き受けてくれる事になった。

勉強は好きではないけれど、一希と話せるのは嬉しい。
彼が久我山家に来るたびに、教科書とワークを持って駆け寄った。

『ねえ、一希、今日は算数を教えて？』
『いいよ、これは夏休みの宿題かな？』
『うん、たくさんあるでしょう？ うちの学校の先生、厳しいの』

頰を膨らませて言うと、一希は笑いながら頭を撫でてくれる。

『美琴、勉強は大事なんだぞ？ 慣れるまではちょっと大変かもしれないけど、頑張れば絶対に自分の為になる』

『自分の為？』

『そう。いろいろな事が出来る大人になった方がいいだろ？ 美琴はどんな大人になりたいんだ？』

『私？ お母さんみたいに幸せなお嫁さんになりたいな。それで家族で仲良く暮らすの』

美琴のその言葉に、一希の表情が一瞬強張った。

『どうしたの？』
『いや、なんでもないよ……すごくいい夢だね』
『ふふ、ありがとう』
『素敵なお嫁さんになる為にも勉強しないと駄目だぞ』
『あ、はーい。じゃあ、割り算を教えて？ よく分からないの』
『いいよ、じゃあまずは一緒に解いてみようか』