仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
翌朝、仕事初めの一希は早朝六時前に起き支度をしたが美琴が部屋から出て来る気配は無かった。

以前は一希よりも早く起きて全ての支度を済ませ一希を見送ろうとしていたが、いつの間にかそれも無くなっていた。

コーヒーを飲みたかったが、当然用意されていない。

諦めて冷蔵庫のミネラルウオーターを飲んでいると迎えの車が来たので、家を出た。



神楽グループ本部があるのは都心オフィス街の中でも一等地に立つ高層ビル。

ビル内は数多のグループ会社が入っており、一希をはじめとした役員の部屋は高層階にある。

役員専用エレベータに乗り高層階で降りる。秘書室の前を通り部屋に入ると直ぐに千夜子が追いかけて来た。

「一希おはよう、久しぶりね」

新年早々は来客が多い為か、彼女は普段よりも畏まったスーツ姿だった。

千夜子は自社ビル内のコーヒーショップの袋をふたつ一希の机に置くと、背もたれの無い椅子を持って一希の隣に来た。

「今日はアボカドサンドよ。一希は野菜嫌いだから意識して取らないとね」

上機嫌に言い、千夜子は自分の分のサンドイッチを上品な仕草で食べ始める。

秘書の千夜子が一希の朝食を準備するのはよくあることで、今までその行動にとくに何かを感じることはなかった。

しかし、久しぶりに長期休暇をとり間が空いた為か、落ち着かない気持ちになった。
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