仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
『そうはいかない。結婚したら美琴には妻として十分な待遇を与えて貰う。断るのなら私は掴んだ事実を公表する。まずは君の父に話すよ』

穏やかな面の中に、狡猾さが垣間見られ一希は息を呑んだ。

(久我山俊三は本気だ……)

『……俺にはあなたに従うしか選択肢がないようだ。だが、妻に迎えそれなりの待遇をしても、心を通わせることは出来ない。理由はあなただって分かるでしょう』

『一緒に暮らしていれば気持ちも変わるだろう。条件として跡継ぎもつくってもらうからね』

(彼の望みは後継か? 俺が神楽家にいる間に子供を作れということか?)

探ろうとしても目の前の老人の顔からは何も読み取れない。

『この結婚は君の父君も賛成しているよ。母君は当然反対だろうが。きっと観原千夜子と結婚させたいとでも思っているだろうからね』

『それは有り得ない。千夜子はそんな相手ではない』

久我山俊三は今日初めて意外そうに眉を上げた。

『そうなのか。唯一の懸念事項が彼女の存在だったが。心配はいらなかったようだ、安心したよ』

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