仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
その一月後に、美琴と再会した。
彼女は思い通りに事が運び満足していると言うより、なぜか戸惑っているように見えた。
一希に対する態度も遠慮がちだった。しかし、時折笑顔を見せたため、結婚を喜んでいるのだろうと感じた。
それから半年後に結婚式を挙げると決まった。
婚約期間の半年間、一希はなにかと理由を付けて美琴に会う機会を極力持たないようにしていた。それに対して美琴が不満を言うことは無かったが、稀に会ったときはしきりと話しかけて来たから一希の訪れを待っていたのだろう。
しかし、結婚式直前に彼女の様子が変化した。
一希に対し、一歩引いた態度を取るようになったのだ。
それまでのような笑顔もなく、はっきりとした溝を感じた。
心境の変化が有ったのだろうか。彼女が何を考えているのか分からなかった。
結婚式当日は学生時代の友人たちが駆けつけてくれた。
それぞれが仕事を持ち、普段は海外を拠点にしている友人も多く久々の再会だった。
一希にしては珍しく気分が高まり、披露宴のあとに飲みにでようと言う話になった。
美琴の方は一希に比べ友人の招待客が少なく、披露宴のあと出かけようというような話はないようだった。
披露宴だと言うのになぜか浮かない表情の花嫁を見て、重い気持ちになった。どう対応すればよいのか分からない。
美琴は一希の友人にたちに対しても余所余所しい態度で、とても会話の輪に入れるようには見えなかったが、それでも礼儀として声をかけた。
『友人たちと飲んでくる』
私も行くと言えば、多少場はしらけるかもしれないが連れて行くつもりだった。
気持のない妻でも、さすがに結婚式当日に放置するのは気が引けたからだ。
しかし美琴は無表情で『そう、行ってらっしゃい、私はホテルで休みます』とだけ答え、一希から目を逸らした。