仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
美琴は献身的に看病をしてくれた。

慣れているのか医者が褒めるくらい適格な対応だった。

夜には病人食を用意してくれた。彼女の料理を口にするのは初めてだった。

言い合いばかりしている相手に食事だけ世話になる気がおきず、美琴の料理は断っていた。

意地になっていたのもある。しかし食べてみると驚くくらい美味しかった。

あっという間に食べ終えると、薬と水を差し出される。飲むと丁度良い温度のタオルと着替えを渡される。

そう言えば体は辛いが不便は全くない。美琴がそうしてくれているんだと気付いたとき、寝室を出て行こうとする彼女の後姿に思わず声をかけていた。

『明日は休みにした』

今まで予定を告げたことはないからか、美琴は驚いていたようだった。

『今夜と明日ゆっくり休んでね』

そう言う彼女の表情は優しく穏やかだ。

はにかんだような微笑みには幼い頃の面影があった。

(……これが本来の彼女の姿なんじゃないのか?)

一希の目に映る美琴は、卑怯な手を使い結婚を進め、千夜子に敵対心を持ちヒステリックな声を上げる高慢な人物。

しかし、そんな女性がこんな優しい目をするのか? 心配する様子も本心に見える。

そう思うと自然に言葉が口から出ていた。

『それ、美味かった。手間をかけさせたな』

礼を言うなんて初めてだったから美琴は驚いたようで、ぎこちない顔をしていた。

彼女は自分が思う程悪い人物ではないのかもしれない。

幼い頃は素直な良い子だったのだし、話し合えばもっと穏やかな関係が築けるかもしれない。

そう考え初めていたが、やはり美琴は久我山俊三と同じ冷酷な人間だった。
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