仮面夫婦～御曹司は愛しい妻を溺愛したい～
家庭内別居のような暮らしは、想像以上に苦痛だった。

美琴と顔を合わせるのが気まずくて、自宅から足が遠のく日々が続いていた。

オフィス近くのホテルに部屋を借りて滞在していたが、いつまでもこの状況を続ける訳にもいかない為、久しぶりに自宅に戻る予定でいた。

午後七時過ぎ。オフィスの自分の部屋で帰り支度をしていると、ノックの音と共にドアが開き千夜子がやって来た。

『あら？　今日は早いのね』

『ああ、なにか有ったのか？』

千夜子は書類の束を手にしている。何か急な決済でもあるのだろうかと考えたがそうではないようで、彼女は書類を一希の机に無造作に置いた。

『これは明日で大丈夫よ。一希が帰るなら私も帰ろうかしら』

『ああ、帰れるときは早く帰った方がいい』

『そうね、一希は今日もホテルでしょう？　食事でもしていかない？』

『いや、今日は自宅に帰る』

一希が答えると、千夜子の表情が曇った。

『どうして？　美琴さんが嫌でホテル住まいをしているのでしょう？』

『……そういう訳じゃない』

美琴に対する感情は複雑で、自分でも整理出来ていない。

言い合いをしているときは強い敵対心を覚えるが、彼女の優しさを感じるときも確かにある。穏やかなときの彼女と過ごすのは嫌じゃない。

ただ、今の美琴とそんな時間を持てるとは思えなかった。

彼女は一希を避け、寝室すら別にしているのだから。
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