仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
『じゃあどういうつもりなの? ねえあの子にはっきりと言ってるの?』

千夜子がじれったそうに迫ってくる。

『何を言うんだ?』

『あの子が神楽家の女主人になることも、一希に愛されることもないって事実をよ。勘違いしないように伝えるべきよ』

一希は小さく溜息を吐いた。

千夜子には神楽家と久我山家との婚姻の経緯を伝えている。しかし美琴に対する一希の個人的な感情は話していないから、一希が美琴を毛嫌いしていると信じている様子だった。

『千夜子、俺と美琴の関係については気にしないでいい』

『あら、どうして? 私と一希の間で隠し事はなしのはずでしょう?』

『……この件は別だ。夫婦の問題なのだから俺と美琴で解決するべきだろう』

千夜子は苛立ったように目付きを鋭くする。

『私は一希を心配して言ってるのよ? あの子は子供でまともに話し合いなんて出来ないじゃない。だから私が一希の代わりに言ってあげるわ』

千夜子はどうしても一希と美琴の問題に介入したい様子だった。

だが美琴が千夜子の助言を受け入れるはずがないし、一希としても夫婦の問題にはいくら千夜子でも立ち入って欲しくない気持ちが大きい。

『傍からみれば歯がゆいのかもしれないが、これ以上は口出しするな』

はっきりと介入を拒絶すると、千夜子は眉間にシワを寄せながらも『分かったわ』と引き下がった。

千夜子は押しが強い生格だが、一希が本気で嫌がることはしないと長年の付き合いで分かっている。

思った通り、彼女は話題を変えて来た。
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