仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
美琴を伴い柿木家に入ると、顔見知りの招待客たちと挨拶を交わす。
心配していた美琴は表面上は穏やかな笑顔で、そつなく会話をこなしていた。
主催者への挨拶を問題なく終えると、旧友に会った。
披露宴には呼べなかったが、大学時代に親しくしていた相手だ。
久しぶりの再会に会話も弾む。夫婦仲は良好と思われているようで、何度もからかわれる。
上手く交わしていると、背後から声をかけられた。
『一希』
振り返ると、千夜子がひとりで佇んでいた。
『千夜子、来ていたのか』
『ええ、楽しんでいるところ申し訳ないのだけれど、少しいいかしら? 報告があるの』
千夜子は声を潜めて言い、友人にも笑顔を向けて非礼を謝罪する。
友人も感じ良い笑顔を浮かべて返事をしていたけれど、同じ大学で顔見知りのはずの千夜子と会話が弾むことはなかった。
そう言えばこの友人は昔から千夜子と距離を置いていたなと思い出しながら、庭に向かう。
少し歩き人気が少ない場所に辿り着くと、問いかけた。
『何が有ったんだ?』
『桜川不動産の社長が急ぎ連絡を取りたいと言っているの。それから経営企画部長が緊急で決済を貰いたいと……詳細はこれよ確認して貰える』
千夜子は一希の隣に立ち自分のスマートフォンを差し出す。
一希は目を細めて電子決済画面を確認していく。
それから千夜子といくつかやり取りをして、会場に戻ると予想外の光景が視界に映りこんだ。
テラスのテーブル席で、美琴が人目を引く若い男性と楽しそうな笑顔で話し込んでいたのだ。