仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~





――――あの時の美琴は一希が見たことのない安心しきった笑顔だった。

(それだけ、葉月慧に心を許しているということか?)

それにしても距離が近すぎる気がする。一希が彼との付き合いについて口にすると、
過敏な反応もした。

千夜子じゃないが、本当にただの友人なのか疑いが拭えない。

だが直接問い質すのは無理だ。ますます怒りを買うだけだろう……。




「一希……一希!」

高い声で呼びかけらえれ、一希ははっとして我に返った。

同時に視界に千夜子の不満そうな顔が映る。

「どうしたの? 返事もしないで」

どうやら千夜子は、一希に何か言っていたようだ。

「すまない、少し考え事をしていた」

千夜子は呆れたような目をする。

「もう! しっかりしてよ。そんなだから久我山にいいようにされるのよ」

「いいように?」

「そうよ、あの二人のことを誤解していたのかもしれないなんて言い出すなんて信じられないわ。望まない結婚を強いられたこと、もう忘れてしまったの? 確かにあのときは結婚するしかなかったけど、問題はそのあとよ。最近の一希は久我山家に対しての怒りを忘れてしまっている、彼らの思惑通りになってるのよ」

千夜子の発言は過激だが図星でもあった。

脅迫されたときに感じたような強い怒りを、今は持っていないからだ。

久我山家のふたりの態度を見てだけでなく、美琴の発言も大きかった。
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