仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
カチャリと玄関が開く音がする。

美琴は大きなため息を履いて、項垂れた。

(今日も帰って来た)

いくらなんでもおかしいと思う。

連日帰宅して、かといって家で何かしたり美琴に文句を言う訳でもなく大人しく過ごしているなんて。

(何を企んでいるの?)

顔を合わせないようにしてやり過ごそうとしているが、これだけ続くと不安になる。

落ち着かない気分でいると、慧からメッセージが届いた。

『久しぶり、とくに問題はないか?』

最近は忙しいのか連絡が途絶えておりどうしたのか心配だった。直ぐに返信する。

『久しぶり。問題ないと言いたいけど、実は一希が毎日帰って来てなんだか怖いの。今のところ何も言ってこないけど、怖いこと企んでそうだよね』

するといつもはレスポンスの早い慧が、やけに時間をかけて返信してきた。

『そんな警戒するなよ。ただ家で寛ぎたいだけかもしれないだろ? 美琴から声をかけてみろよ』

『え……それは無理でしょ』

『これからも毎日帰って来るかもしれないんだから、早めに確認した方がいいだろう?』

慧の言うことは最もだと思った。

いつまでも不安のまま過ごすのは精神的にも消耗が激しい。

それに離婚の話し合いをするには一希と向き合わなくてはならないのだ。

きついことを言われても傷つかないように、心を強く持ち納戸部屋の扉を開きリビングに向かった。

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