仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
一希はスーツ姿のままリビングのソファーに腰かけていた。

何か考えこんでいるのか美琴に気付く様子はない。

相変らず一部の隙もなく整った横顔は、険しい。

彼の周りには人を寄せ付けない冷ややかな空気を感じた。

(寛ぐ気配なんて全くない。怖いこと考えてそう……)

怯みそうになりながらも、声をかけてみる。

「一希」

聞こえなかったのか呼びかけに反応はなかったが、彼はまるで絶望したような深い溜息を吐いた。

「一希、どうしたの?」

思わずそう声をかけると今度は声が届いたのか、一希の体が大袈裟なくらいびくりと揺れ、勢いよくソファーの背もたれから身を起こした。

「な、なんでそんなに驚くの?」

美琴の方が驚いてしまった。

「あ……いや、何でもない」

「何でもないって……ねえ、どうして最近早く帰ってくるの?」

勢いで本題を切り出すと、一希は形良い目を細めて美琴を見た。

「帰って来たら駄目なのか?」

(怖い顔……怒らせた?)

帰宅を責めてるように取られたのだろうか。

また文句を言われるのも嫌なので急ぎ弁解する。
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