仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
慧のことは有る程度理解出来るのに、一希の心は少しも分らない。

(私たち、本当に心の離れた夫婦だ……)

改めて実感する。同時に胸が鈍く痛んだ。

(私、まだ一希のことで傷つくんだ)


どうしたって捉えられない一希の心を思うと苦しくなる。

その夜、予想通り一希はいつもの時間に帰って来た。

慧に家まで送って貰い直ぐに夕食の支度をしたので、ダイニングテーブルには温かな料理が並んでいる。

今日は一希の好きなグラタンをメインにしたメニューだ。

テーブルを目にした一希の表情がほんの僅かに緩む。

最近知ったが一希は子供っぽい料理を好む。

会食であらゆる料理を食べているはずの一希が、美琴の普通の料理を美味しそうに食べる。
そんな姿を見るのが好きだった。

「頂きます」

一希はそう言うとグラタンを口にして、ほんの少しだけ微笑んだ。

寛子との会話、慧に聞いたこと。一希に問い質したいことは沢山あった。

それなのに美琴の口から出たのは、

「美味しい?」

の一言だった。

「ああ、美味いよ」

一希は短く答える。

素っ気ないとも言える。けれど、そこに冷たさは感じなかった。

こうして過ごしていると不思議になる。

(私達本当に離婚するのかな?)

まるで嘘みたいだ。このまま日々が続いて行く様な気がする。

いや、続いて欲しいと思っている。

そう自覚したとき、グラタンを食べ終えた一希が言った。

「美琴、近い内に別居しよう」

「……別居?」

「離婚を進める為には別居した方がやりやすい」

一希の表情は穏やかだった。

美琴を見つめる目は、これまでが信じられないうくらい優しい。

(でも一希は本気なんだ、私と離婚すると決めたんだ)

声が出て来なくて、美琴は小さく頷いた。

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