仮面夫婦～御曹司は愛しい妻を溺愛したい～
「なぜ？」

「だってこんなやり方納得が出来ない。私達まだちゃんと話し合ってないでしょう？」

強引なやり方だという自覚があるのか、一希は気まずそうな表情を浮かべた。

「……だが、離婚は美琴が希望していただろう？」

その通りだが、それは一希と険悪だった頃に決意したことだ。

その後一希の態度が変化し穏やかな関係を築けていると思っていた。

言葉は少なかったけれど、ふたり一緒の食事を幸せだと感じた。
気持が揺らぐなと言う方が無理だ。

「別居前私達の関係は悪くなかったよね？　一希は何の為に態度を変えたの？」

「それは……」

「円満に離婚する為に私の機嫌を取ったの？」

「そうじゃない」

一希は断言する。咄嗟に出た言葉のようだった、きっと本心なのだろう。

（それならどうして？）

「こんな風に突然突き放すのなら初めから優しさなんて見せないで欲しかった。安心させた後に突き落とすような真似どうして出来るの？」

つい責めるような口調になると、一希は辛そうに顔をしかめた。

その顔を見てハッとする。

彼との再会で感情的になってしまったけれど、責めたくてはるばる追いかけて来た訳ではない。

（落ち着かなくちゃ）

美琴は深呼吸すると、冷静さを心がけて告げる。
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