仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「ごめんね感情的になって。今日会いに来たのは一希と話したかったからなのに」

「話?」

「正確には聞きたいこと。いろいろあり過ぎて私は混乱したままだし、こんな気持ちのまま離婚したくないから」

心のまま言うと一希は小さく頷いた。

それは質問して良いという合図と捉え、美琴は続きを口にする。

「私の実家に援助してくれていたことを聞いたの。何も知らなかったから驚いた。どうして黙って助けてくれたの?」

「鈴本恵美子と何度か話した。彼女は執拗でいつまでも無心を行うと思った。美琴が行政の支援などを調べているのは知っていたが、そのやり方は彼女に対し有効ではないと思った」

「お祖父さんも同じようなこと言ってた。恵美子さんは更生しないしこれからも誰かを頼るだろうって。でも一希は無視出来たんじゃないの? そう出来ない何かが恵美子さんとの間に起きていたの?」

一希は今度は少しの間を置いてから答えた。

「俺が無視をしたら再び美琴がターゲットになる。美琴は兄弟を心配しているから無視できないだろう?」

「……え? それが理由?」

一希は頷く。

思いがけない返事に、思わず目を瞠る。

(私の為だけに? そんな、どうして……)

美琴は一希にとって大切な相手ではない。
本人の口からもそう聞いている。
けれど一希は、まるで妻を守るような行動をしている。
< 320 / 341 >

この作品をシェア

pagetop