仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「美琴さん、どうしたの? 顔色がわるいけど」

千夜子の甘ったるい声、人を馬鹿にしたような笑い顔を見ていたら、吐き気が込み上げて来た。

口元を押さえて、トイレに駆け込む。

すると何を考えているのか、千夜子が追いかけて来て、閉じた扉を激しく叩いた。

「美琴さん、どうしたの⁈」

ダンダンダンと、執拗に扉が叩かれる。

「気持ちが悪いの? やだ、どうしよう」

千夜子の声が耳障りで、ますます気分が悪くなる。
嫌がらせのように続く、扉を叩く音にも。

耳を塞いで耐えていたけれど、限界だった。

「うるさい! 出て行ってよ!」

ヒステリックに叫ぶ。

「美琴さん、どうしたの? なんでそんなに怒ってるの?」

「いいから、出て行って! 目障りなの! 二度と私の前に現れないでよ!」

こんな酷い言葉、人に対して言ったことはなかった。
千夜子を攻撃しているはずなのに、変わってしまった自分自身に傷ついて涙が溢れる。

けれど彼女には何も響かないようで、「あら、怖い」と言うと、楽しそうに笑っていた。

屈辱で身体が震えて止まらない。

声を押し殺して、泣き続けた。
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