仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「……朝食に何か作りましょうか?」

答えは予想がついているけれど、あえて聞く。

「必要ない」

素っ気ない返事。
美琴は気にした様子もなく頷くと、食事のことなどもう忘れたように、話題を変えた。

「日中、外出します」

「また、実家か?」

「いえ、買い物に」

「……好きにすればいい」

「私が留守だからって、観原千夜子を入れないでね」

一希は、嫌悪感を隠さず苛立たし気に美琴を睨む。

その視線をさらりと受け流し、美琴は自分の小さな城に戻った。


昨夜、自分なりに考えて決めたルールがある。

後継をつくるという条件を果たせる目処がたたない今、離婚は難しい。
円満離婚でないと、美琴には何の保証も与えられないのだから。
当然、実家への支援も止まり、弟たちの生活が困窮する。
感情優先で、ここを飛び出すのだけは、駄目だ。

一希に自分から歩み寄る気持ちはもう無いけれど、妻としての義務はきちんと果たそうと決めていた。

顔を合わせたら挨拶をする。これは妻としてと言うより、人として当たり前のことだ。

食事の支度もする。ほぼ専業主婦だから家事全般は手を抜けない。

そして、最後に限界まで我慢するのは止める。

不快ならば、そう伝える。

夫を気遣うよりも、自分を守ろうと決心したのだ。
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