仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
家庭内別居のような暮らしは、想像以上に快適だった。
一希とはほとんど顔を合わせなくなっていた。
美琴が納戸部屋に篭っているからだけではなく、彼が帰宅しない日が段々と増えていっているからだ。
堂々とした外泊。当然、美琴に連絡はない。
(観原千夜子の部屋に泊まっているの?)
それどころか、一緒に暮らしているのだろうか。
家に連れてこれなくなったから、開き直って別宅を構えているのかもしれない。
心の奥深くが軋むのを感じたけれど、直ぐに考えるのをやめた。
また、一希に抗議する気もなかった。
(約束通り、観原千夜子が私に近づかなくなったのだから)
十二月上旬の週半ば。
ひとりの簡単な夕食を終えて片付けをしていると、玄関の鍵が開く音がした。
驚いて時計を見ると、午後の八時十五分。
一希の帰宅には考えられない時間だ。
そもそもここ一週間、家に寄り付いていなかったのだし。
途中だった洗い物のスピードを上げていると、リビングの扉が開き、一希が現れた。
「……おかえりなさい」
一希はとても疲れた顔をしていた。
目の下にはクマがあるし、肌が荒れている。
「食事はしてきたの?」
「いや……不要だ」
歯切れ悪く答えた一希は、「話がある」と言いソファーにどさりと座り込んだ。
「話?」
改まって、なんだろう。
良い内容とも思えず警戒していると、一希はビジネスバッグから白地に金の細工のついた封筒を取り出し、ローテーブルに置いた。
「柿ノ木家で大きな集まりがある」
「……柿ノ木製薬の創業者のこと?」
「そうだ。先日会長を退いたが、今までの功績を称えて祝いの席を設けるそうだ。俺たちも招待されている」
「私も? それは招待状なの?」
ローテーブルの封筒に手を伸ばす。
「そうだ。正式なパーティは基本的に夫婦同伴だからな」
「……分かった、準備しておくわ」
名ばかりとはいえ、美琴は一希の妻だ。
義務は果たさなくてはならない。
「先に言っておく」
「え?」
「そのパーティには千夜子も出席する」
一希とはほとんど顔を合わせなくなっていた。
美琴が納戸部屋に篭っているからだけではなく、彼が帰宅しない日が段々と増えていっているからだ。
堂々とした外泊。当然、美琴に連絡はない。
(観原千夜子の部屋に泊まっているの?)
それどころか、一緒に暮らしているのだろうか。
家に連れてこれなくなったから、開き直って別宅を構えているのかもしれない。
心の奥深くが軋むのを感じたけれど、直ぐに考えるのをやめた。
また、一希に抗議する気もなかった。
(約束通り、観原千夜子が私に近づかなくなったのだから)
十二月上旬の週半ば。
ひとりの簡単な夕食を終えて片付けをしていると、玄関の鍵が開く音がした。
驚いて時計を見ると、午後の八時十五分。
一希の帰宅には考えられない時間だ。
そもそもここ一週間、家に寄り付いていなかったのだし。
途中だった洗い物のスピードを上げていると、リビングの扉が開き、一希が現れた。
「……おかえりなさい」
一希はとても疲れた顔をしていた。
目の下にはクマがあるし、肌が荒れている。
「食事はしてきたの?」
「いや……不要だ」
歯切れ悪く答えた一希は、「話がある」と言いソファーにどさりと座り込んだ。
「話?」
改まって、なんだろう。
良い内容とも思えず警戒していると、一希はビジネスバッグから白地に金の細工のついた封筒を取り出し、ローテーブルに置いた。
「柿ノ木家で大きな集まりがある」
「……柿ノ木製薬の創業者のこと?」
「そうだ。先日会長を退いたが、今までの功績を称えて祝いの席を設けるそうだ。俺たちも招待されている」
「私も? それは招待状なの?」
ローテーブルの封筒に手を伸ばす。
「そうだ。正式なパーティは基本的に夫婦同伴だからな」
「……分かった、準備しておくわ」
名ばかりとはいえ、美琴は一希の妻だ。
義務は果たさなくてはならない。
「先に言っておく」
「え?」
「そのパーティには千夜子も出席する」