仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
車寄せに停まった車から、一希のエスコートで降りる。

彼に触れるのはあまりに久しぶりで、緊張した。

柿ノ木邸に入ると一希はにこやかな笑顔になり、すれ違う人々と挨拶を交わして行く。

多様な企業を傘下におく神楽グループの御曹司の彼には、近よる人が後を絶たない。

主催者なみの注目を浴びているようだった。
当然妻の美琴も注目される。

一希の腕に手を添えながら、そつなく会話をこなして行く。
こんな場には慣れていないけれど、結婚前に祖父の久我山家でマナー教育は叩き込まれた。

側から見ればおかしなところは無いはずだ。

一希とふたりで、主催者への挨拶も終えると歓談の時間になる。
彼は旧友に会ったとかで、美琴の知らない男性と楽しそうに話しはじめていた。

少し離れた場所でその様子を眺めていた美琴は、複雑な気持ちになった。

(一希、明るい笑顔で楽しそうだわ……顰めっ面をしているのは、私の前でだけなんだ)

そう言えば、幼い頃の一希はいつも気さくで明るく面倒見が良かった。

(私が嫌われてるだけなのね)

美琴にとっては酷い夫の一希も、他者から見れば素晴らしい男性なのだろう。

やりきれない気持ちになって、ウエイターから差し出されたカクテルを飲む。

人の多い会場の熱気で喉が乾いていたせいか、グラスは直ぐに空になった。
柿ノ木家が雇った気の利くウエイターがお代わりを持って来る。

それを受け取り口にし、しばらくぼんやりとしていると、一希の姿が消えていることに気がついた。

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