仮面夫婦～御曹司は愛しい妻を溺愛したい～
（やっぱり観原千夜子と一緒だったんだ）

予想はしていたけれど、不快感が込み上げて来るのは抑えられない。

千夜子が美琴を見る目も苛立ちのひとつだった。
不敵な表情で、見下されているように感じる。
どう考えても、上司の妻に向ける視線ではない。

彼女が視界に入ることが耐え難かったけれど、ぐっと堪えて一希を見つめた。

「どこに行っていたの？」

自分で思っていた以上に厳しい声が出た。
まるで罪を追求するような。

一希もそれに気付いたようで、僅かに顔をしかめる。
それでも、場を考えているからか、いつものように冷ややかな言葉を投げつけて来ることはなかった。

「彼女から仕事の報告を受けていた。他人に聞かれたくない内容だったから、外に出たんだ」

「そう。私はそれを知らなかったから、あなたを探していたんだけど。同伴しておいて一言もなく置いていくのは非常識ではないの？」

一希と千夜子がふたり並ぶ姿を見たことで、苛立ちに歯止めが効かなくなっていた。

自分でも制御できない感情が湧いて来る。

家ではどんなに蔑ろにされても、こんな風にならない。

（観原千夜子がいるからだわ）

彼女の存在が、美琴から冷静さを奪うのだ。

このままではもっと攻撃的なことを口走ってしまいそうだと感じたとき、すっかり存在を忘れていた慧の声が割り込んで来た。
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