仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
「神楽さんお久しぶりです」

慧の声は、緊迫した場に不似合いな程明るく感じた。

けれど、彼の存在が美琴に客観性と冷静さを思い出させてくれる。

(いけない……落ち着かなくちゃ)

一希から目をそらし、小さく息を吐いている間に一希と慧の会話が進んで行く。

「君は……葉月ホテルの」

「葉月慧です」

「ああ、そうだった。葉月光の弟だったな。今日はひとりなのか?」

「はい。一応葉月家の代表として来ました。こういう場はいつもは父と兄に任せているので戸惑っていたところ、彼女を見かけたので、声をかけたんです」

「……なぜ美琴に?」

それまで作ったような笑顔だった一希の顔に、僅かながら警戒が浮かぶ。

慧はそれに気付かないかのように朗らかに言った。

「俺たち同級生なんですよ」

「同級生?」

「ええ、中学のときの。十年ぶりの再会だよな」

慧は、後半は美琴に視線を向けて言う。

楽しそうな声。返事をしようとした美琴はハッとした。

彼は笑顔なのに、目が笑っていないのだ。

(……怒ってるの?)

慧のこんな顔を、昔見た覚えがあった。
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