仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
第六章 結婚の理由
慧は部屋の隅にあるソファーに、美琴を連れて行った。

ソファーの前にはテーブルが有り、軽く食事が出来るようになっていた。

メインの部屋にはしっかりとした食事が用意されているのに、ここの軽食は需要があるのだろうか。

そんなことを思っていると、慧がスーツの上着を脱いでソファーに置いた。

「腹減った。俺何も食ってないんだ、美琴は?」

「食べてないけど」

「なんか食べようぜ。美琴もな」

「私はいいよ、お腹すいてないし」

あんな出来事のあとに食べる気になれない。

「少しでも食えよ。お前顔色悪いぞ。それに、痩せただろ?」

強引に手を引き軽食の用意されたテーブルに促す慧に、美琴は苦笑いを浮かべた。

「痩せたって、さっきは変わってないって言ってたのに」

それに十年ぶりに会ったのだ。
美琴が痩せたかなんて判断出来る訳がない。

「細かいところ突っ込むなよ。とにかくしっかり食べないと身体に悪いぞ」

「……分かった」

慧が心配して言ってくれているのが分かったので、美琴は素直に従った。

サンドイッチとアイスティーを取り席に戻る。

慧は早速サンドイッチにかぶりつく。時折美琴にも食べるよう促す。

美琴が二切れ食べ終えると、しみじみと言った。

「美琴……苦労してるんだな」

「え?」

「結婚生活上手くいってないんだろ?」

「……分かる?」

「直ぐに分かった。神楽さんがあの女と連れ立って来た時、美琴、鬼みたいな顔してたし。修羅場が始まるって焦った」

冗談ぽく言う慧に、美琴も脱力して笑う。

「鬼って酷い、それに全然焦って無かったでしょ? 澄ました顔してたよ」

慧はフッと笑みを零す。それから不意に真面目な顔をみせた。

「俺、美琴から結婚したって聞いた時、神楽さんと上手く行ってるんだろうと思ったんだ」

「どうして? 政略結婚だって言ったでしょ?」

「それが不思議だったんだ。神楽家は久我山家との縁を必要としていないはずだから」

「……え?」

(どう言う意味?)

慧の思ってもいなかった言葉に、美琴はただ戸惑いを感じていた。

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