仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
慧は先程と表情を変えていなかった。

「ご丁寧にありがとうございます。観原さんも招待客とのことですが、観原家と柿ノ木家に交流が有るとは知りませんでした」

淡々と言う慧に、千夜子は少しだけ顔を曇らせた。

「ええ……最近のお付き合いなので」

「そうなんですね」

慧はそう言ったきり黙ったので、千夜子との会話は広がらなかった。

不満そうな千夜子を隣で見ていた一希が、慧に言った。

「仕事の関係者と話すので、その間、美琴を頼みます」

「喜んで」

慧は今度は笑顔を浮かべて答える。

一希は慧から視線を外すと、美琴を見つめた。

「後で迎えに来る」

「……分かった」

小さな声で答えると、一希は千夜子を連れて室内に入って行く。

結局、千夜子は美琴に挨拶ひとつしなかった。

近づくなと言ったのは美琴だけれど、この状態で無視をされるのも不快だった。
かと言って、彼女から話しかけられても苛立つだけだろう。

複雑な気持ちでふたりの後ろ姿を見送っていると、慧の溜息が漏れ聞こえて来た。

「あ……なんか、ごめんね」

「何が?」

「変なことに巻き込んだと言うか……」

短い時間だったけれど、険悪な雰囲気は感じ取っただろう。

「別に巻き込まれたって程でもないけど……そうだな、美琴こっち来い」

慧は突然美琴の手を取り、テラスから室内に引っ張って行く。

「え、慧?」

(まさか、一希たちを追いかける気?)

そうに思い慌てたけれど、慧が向かったのは、軽食と飲み物が用意されている休憩室で、中には二組の老夫婦が居るだけの比較で静かな所だった。
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