「あ、この曲好き。」

休憩から戻ってきたバンドのメンバーが演奏を始めると、ハスキーな女性ボーカルの歌が耳に残る。

「Fly Me to the Moonですね。
俺も好きです。」

「桐生さん、もしかして、ジャズ、演奏
されるんですか?」

「そんな大層なものじゃありませんよ。
趣味でたまに吹くぐらいです。」

「サックス、持ってらっしゃるんですか?」

「大学生の頃、無性に吹きたくなって、
バイト代で買ったんですよ。」

「そうなんですか。
桐生さんのサックス、聞いてみたいです。」

「よろしければ、遊びに
いらっしゃいますか?」

さらっと桐生さんが言うから、うっかり「はい」って言いそうになる。

だけど、やっぱり、男の人の家には行けないよね。

それこそ、天くんに怒られそうだ。
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