愛のない部屋
早く帰ってくれないかな。
「なんか俺、嫌な奴だね」
憂鬱な気持ちのまま、背中から聞こえた声を無視する。
「本当は君と峰岸に幸せになってもらいたかったんだけど。状況が変わったから、俺はマリコを応援することにしたんだ」
「そうですか」
結局、篠崎もただ峰岸の幸せを願っているだけだ。
「私、あなたのこと嫌な奴だとは思いません」
珈琲を差し出すと、篠崎は不思議そうな顔をした。
うざいけど。
でもーー
「友達のために朝早くから訪ねることなんて、私には面倒くさいことです」
篠崎が悪者になることで私と峰岸の仲を引き裂こうとしているのだとしたら、さっきの失礼な言葉を撤回しよう。
人間は、顔が全てじゃない。
「君は面白いね」
「つまらない人間だと思いますが」
「峰岸が傍に置きたい理由も分かる気がするよ」
アイツが私を傍に置いているのは、たぶんひとりになりたくないという単純な理由だと思う。
出ていけと命じられて拒む理由もないのだし、
こんなあっさりとした関係をアイツは気に入っているのだろう。
「さぁ、俺は帰ろうかな」
2杯目の珈琲を飲み干して突然の訪問者は立ち上がった。