愛のない部屋

「沙奈ちゃん、」


玄関に向かおうしていた篠崎はリビングのドアを開けて静止した。



「君はこのままで良いの?」




くるりと回転し、こちらを向いた篠崎は心配そうな表情で。



「今の関係は楽だろうね。確かに恋人同士になった瞬間から楽ではないし、自分の重荷になる可能性もある」


「……」


「それでも恋人になれば、特別な関係になれる。その人の中で自分が一番になれるなんてさ、素敵なことじゃない」


「素敵でしょうね」



愛し合う者たちが共有する時間は、甘くて温かくて。

誰も邪魔できない彼らだけの空間。



「峰岸のことが好きなら、逃げちゃいけないよ」



篠崎に諭すように言われて笑ってしまう。

誰の味方?


「篠崎さんは邪魔な私を排除したいんじゃないんですか?応援するなんて矛盾しています」



どこまでも分からない人だ。



「排除なんて言い過ぎだよ。ただ途中で投げ出してしまうくらいなら、諦めて欲しいんだ。結局、傷付くのはアイツだから」


「まるで私が峰岸のことを好きみたいですね」



誤ったことを前提に、話を進めないで欲しい。

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