愛のない部屋
「ふぅん」
納得のいかない顔で篠崎は私の表情を伺う。
「今朝早くから、峰岸が何処に行ったのか知りたくない?」
「別に何処でも、良いですけど」
少し間をおいてから、
「マリコに逢いに行ったんだよ」
楽しそうにそう告げた篠崎がなんだか悪魔に見えた。
人のことをとやかく言うつもりはないけど、性格悪すぎでしょう。
「手紙の内容を知らなければ、峰岸は朝から出掛ける必要もなかったと思うな」
「なにが言いたいんですか?私は峰岸のことをなんとも思ってないので。無駄な心配はしないで下さいよ」
「心配?君の入る余地はないのに、心配なんてしてないよ。俺が言いたいのはさ。早くこの家を出てもらいたい、ってこと」
こんな男がどうしてモテるのか、社内の女性にアンケートして歩きたい。
その結果、理由が"顔が好み"だったら、
大声で笑ってしまいそう。
いや笑ってやろう。
「あなたの指図は受けません。峰岸に出て行けと言われたら、そうします」
「そっか」
こんな空気の中、篠崎は珈琲のおかわりを催促してきたので、仕方なく空のマグカップを持ってキッチンへと向かった。